夕陽に重なる真紅のネオン
ガタゴトの音で囲まれたなか 、何人かが眠って、その内の一人はまたを大きく広げて、
私のだった隣の車両の動きが今日も奇妙で、買ってみたコロッケの熱が膝に広がると、まだ、まだ何も起きてないのにそのまま、目がごろごろ言い出す。
小さな上下の揺れも一緒にあの駅へつれてってくれる。車だってネオンになれた。
どこから、私とか君とか、そういう境目にクレヨンで縫い目を描いてさ、
白でもいいのに赤とか青とか黄色で、手も服も気にせず二人で塗り歩いた。
どれだけ長いことの時間がかかったか。ぺたりと座った背中が冷たい。
それだけが夢中で。
今、壁に手をつけてみて。ぴったりコンクリートの向こうに思念を送るようにぴたって。
なるべく、白い壁に。
秘密基地・ゆっくりの間 ―大学生になった私用―
約三週間ぶりに大阪のマンションに帰った。
小さな部屋、猫の人形ジジとうねったサボテンが隅っこに息づく部屋。
実家に帰って、幾分心が落ち着いた気がする。今回の帰省で初めてそう思えた。
その前までは、実家に帰っても大阪の家にいてもどこかで誰かと(またはひとりで)いるときも例外なく常に、早くこのときが終わればいいのにって、考えながら過ごしていて苦しかった。
自由な時間さえ叱咤し追い詰めずにはいられなくて、心臓をバクバクさせながら焦ること抜きに、何も出来なくなるくらい不安になること抜きに一日を過ごすことは、凄く自分にとって怠惰で手抜きでずるい生き方に感じられていた。歯磨きもだらだらしちゃだめ、絵もぼんやりと描いちゃだめ、本も寝転がって読んじゃだめ、居心地が悪かった、一人なのに。
例えば夜、電気を消してベッドに入ると、お気に入りの服をクリーニングに出してないとか、あの本を読むはずだったのに借りていないとか、誰かに電話を返してないとか、そういう割とどうでもいいことが過剰に気になりだして目が瞑れなくなる。どっちに不安があるのか分からないまま気休めに寝返りをうつのに、その行為自体がより自分が眠れないっていうことを浮き彫りにして、また焦らせる。今すぐやらなきゃ落ち着かないほど不安なのに、今すぐなんて無理なことばかりが気になりだすのです。
夜のその不安が消えたわけじゃないけど、ゆっくり歯磨きをしたり時間をかけて洗濯をしたりする自分が、少しだけ許せるようになった。それは多分、実家に帰ってる間ずっと、家事全般は全部(料理は共同)私がしていたことに拠ると思う。
あんな風に毎日、朝起きたら洗濯物を外に干して、食器を全自動洗浄機に入れている間に二階から階段までの隅に溜まった埃を掃いて降り、一階のリビングからクロゼットと台所を通って玄関までの廊下に掃除機をかけ仕上げにクイックルワイパー(ウエットタイプ)を軽く滑らせるのが、幸せだと気づかなかった。
食器があがるまでに家中のカーテンにファブリーズを軽くかけて、しばらく読書したりぺろとじゃれたりしながらのんびり過ごす。たまに友達と遊んで、好きな服を買いに遠出して、雑誌を読んで、時々ケーキをねだってみる。そういう、誰にも迷惑をかけないような(ケーキくらいは、ね)、ひっそりしているような、静かなような生活が前の自分にはよく分からなかった。
周りにとっても自分にとっても生産的なことを常に求めるような日常からころりと抜け出して、時間を贅沢に使って家事をするのが、それがつかの間と分かっていたからこそ、心地よかった。
こんな安定はすぐ終わるのだろう。ここにはクイックルワイパーの代わりに、とても小さな掃除機しかないから。
不安なことは何も解決してないし、自分の事もちっとも許せないしそうあるべきだと思うけど、普通のことを普通以上にしないことのごく一部を、こころ少しだけ許せました。
昨日も現実
見たのかなぁ
見たよねきっと
陳列の時に?
品出しの時かもしれない
手紙でない言葉を次々と送るその右手が、錦秋を彩るもみじでなく季節遅れの青い雑草とすみれの間に埋もれてしまえばいいと思う。
携帯電話の著しい発達により、付き合っていた頃に撮られた写メや動画を何の気苦労もなく手段として簡単に相手へ送れるようになった。ナンバーディスプレイに契約しなくとも、誰から何回着信が来たのかすぐわかる。
自衛隊の方に親戚がいるからここに来たんだって
もういいのにね、こんな風に追いかけ回さなくても…
他の四本で支える画面に親指で押し出した文字、水溜まりみたいな改行、宛先なんて簡単に変えられる。わざわざ選んだ相手にわざわざ伝えるあなたの意志はひどく軽蔑されるものだわ。その画像私でなく彼女に送ったらどうかな。
ファミマ?行ったよ。え、そのコンビニってあそこだったんだ
それらしい年齢のレジの人にあなたが***ですかって聞いたんだって、記者が
そこで立ち読みしたよ
今はいないだろうね
考え抜いた手段や情(愛?)に訴える言葉、なじり責める気配と矛盾に矛盾を重ねていく飛礫。揺さぶったり振り回したりねぇちゃんとわかってる?いつまでも一方的で、伝えようとしない自分の姿。
立て続けに感情を吐露したあとこちらの反応が悪いと逆上する。面影がいいように修正されていく。あんなに素敵な人だったのに!
思い出さないんじゃないの。忘れたんじゃないの。
10年経ったんだ
四つしか違わないんだね
被害者の子は、生きてたら二つ下だよ
きっと10年後にも、思い出したように書かれるのね
痛いのは、苦しんでいるのは自分だけだと思っているあなた。忘れられない自分だけが傷ついていると思っているあなた。自分だけが一秒すら命懸けで生きていると言うあなた。
逃げ出したいと言ってここへ逃げてくるあなた。
「永遠に終わりになんかならない。
終わらせたりしない。
ごめん。」
10年、でも、もう誰も忘れられないよ
雲の包帯
もうやだ
もういやだ
空なんて落ちてこないよ
雲だって布をかぶったまま
自衛隊のヘリでさえ空と君の間を掠めるだけなんだから
重たい影と私と君だけを落として空はつぎへ行った
何もかももう許せない
なのに、なのに、
自分の犯した罪はどこにいたって誰といたって白い天井の染みよりはっきり目に付くのに、
どうして簡単に君の罪を忘れた振りができるんだろう。
どうして、お前なんか必要ないと言ったあと必ずでも大切だから、愛してるからと言う君を、憎く思っていた事を忘れるためのように愛おしく感じることができるんだろう。
私って意味ない。
きらいになった、
なのに
着信拒否すればいいじゃん
もうメアド変えた方がいーよ
ちょっと意味わかんない…
何やっても終わりっこないよ
それだけじゃなく、できない
彼のピアノを聴いた日のことを書いた。でも今じゃアップできない。今見たら、まるでうそみたいなんだもん、もう。
☆
ヒとリの間の音のようなフリィフリィフリィという虫の鼻歌が聞こえる。二階の部屋にいるのに、すぐ壁の向こう宙に浮かぶ舞台に似た小さな闇の一区画から聞こえてくるような気がした。
虫って、飛びながら歌えるんだっけ。
ああ、彼が私に固執するのは希望じゃなくて
先の見えた絶望なんだと、欠けたマニキュアの端を恨めしくいじり剥がしてひざに乗せ、心臓を握るように堅く結んだ手で喉元をこつんとやって、死にたいと吐いた。
人の形をした傷に蝋燭なんて与えちゃ駄目。




