名前を持たない関係
休日に親戚のおじちゃんとドライブに出かけた。
琵琶湖を一周した後京都へ抜けて、そこから大阪へと帰ってきた。おばちゃん(おじちゃんの奥さん)が用事で出かけていたので、その日は一日中一緒にいれた。八時間近くはずっとドライブで、途中休憩を挟みながらもおじちゃんがずっと運転をしてくれた。(私、免許持ってるのにね。)
長距離ドライブなので、お互いに好きなCDを持参してきて、かわりばんこに流しながら過ごした。
スピッツ→都はるみ→Cornelius→美空ひばり→チャットモンチー・・・
琵琶湖の景色は、写真に撮って、持って帰りたくなるようなものばかりだった。車からだったのでほとんど撮れなかったのが残念だけれど。なんというか、こう言っておきながら、写真は切り取るものではないという気がしている。
切り取った絵だけでは、本当に紙でしかない。もっと地続きのしているものなんじゃないだろうか、と考えながら太ももをパシャリ。やはり繋がっている。
琵琶湖を一周したあと、京都のラブホテルへ行った。
前に話していたことなのだけれど、「一度綺麗なラブホテルに連れてったる、見てみたいやろ。なんもせんから。」というおじちゃんの言葉はどうやら本気だったらしい。私は、んーとか言ってその時は流していたのだけれど、見てみたい気はしていて、実際行ってみると、入るのが初めてなせいもあるがこれほど気の滅入る場所はないと思った。
私にとっては何もかもがショッキングで、おじちゃんと一緒に歩く私をじろじろ見る従業員の目線が湿っぽくねっとりしていたり、ドアの閉まる瞬間ふっと怖くなるくらいエレベーターが狭かったり、入った瞬間着いたテレビに灯る映像がグロテスクだったり、綺麗過ぎるお風呂場とか色を混ぜた照明とか無料のドリンクサービスとか料金表とか、一つ一つの事物の輪郭同士が依存しあってへばり付き、何が何だか誰が誰だか判らない、匿名的な混沌が部屋中に満ちていて、それが自分の喉に吐き気として下ってきた。
どうしようを100回掛けてもまだまだ足りない、情けないけれど完全にパニくってしまった。
縮こまった私を見て、可哀想なことしたなぁと言って頭を撫でたあと、おじちゃんはシャワーを浴びに立っていった。運転して疲れてもうたわ、と。
どうしよう、が足りない。
何より、私は、一瞬おじちゃんを男として見てしまった。
それで、いやだとも感じてしまった。
週に一度か、多い時は二・三度おじちゃんと一緒に飲みに行くのだけれど、よくおじちゃんは、harufarをおなごとして見とるよ、と言っていた。だからちゅうしてええ、足さわってええ、ほっぺにならええやろ?とか、酔ってる時しか言えないようなことを幾度となく訊いてきた。実際太ももはさわられたし…。私も、酔ってなければ、もうっと怒りそうな冗談も、軽くあしらっていたのだけれど、何だか、わからなくなってしまった。
そんな風に見ていたこともあったんだと、今さら気付く。そういう、私とやらしい関係を結んだ夢を見てしまったということも言っていた。なんや申し訳ない・・・と呟いて、私も何だか申し訳ない気持ちになった。
私は嫌だな、おばちゃんに申しわけないし、おじちゃんのことをおじちゃんとして好きでいたいし、男じゃないよ。
お風呂から上がってきたおじちゃんと、適当にテレビを見ながら時間を潰して、部屋を出た。
結局何もしなかったけれど、そのあともずっと、縮みこまった分の心の余裕は戻ってこなかった。帰りに寄ったくら寿司でも、ぼんやりしていて何を頼んだのか覚えていない。
おじちゃんは男で私はおなごであるけれど、普通の男女関係とは全く違う形でラブホテルに入ったけれど、場所が違えど関係は同じじゃないか。居酒屋でも車内でもくら寿司でも。
私とおじちゃんはどういう関係なんだろう。凄く考えたくない。
おじちゃんが、本気で私のことを女として見ているわけではないのは分かっている。それは気にし過ぎる必要はないだろうと思う。
ただ、ラブホテルの中で感じた、おじちゃんの男っぽい感じというのは、今まで考えもしなかったことだから、すごく、自分の中で重たいものになっている。
今まで付き合った男の人は、自分を残しながら去っていくし、奪いながら満たしていくし、大好きと囁く度に爪を皮膚にめり込ませていくような、掘り起こす痛みと、躊躇いがちな火傷を伴った存在だった。
おじちゃんは違う、けれどおじちゃんは男の人で、それでも違うんだ。
ラブホテルの様相とおじちゃんという未知の男性が一気に押し寄せてきて、頭がぎゅうぎゅうと混乱した。
そしてこれはばかみたいだけれど、私は、躊躇しながら火傷を負わせてくる男の人をとても愛している。たぶんこの先も愛することになると思う。傷つきながら傷を焼き付けてくる時の、筆舌しがたいあの表情に、一生かけて指を這わせるんじゃないかと思う時もある。私も彼に、傷を作りながら。
お互いそんなつもりもないのに。
私は女の子にどう接近していいかわからない。表面上だけの関係なら、ごく狭い意味である程度事足りるけれど、それ以上はどう近くなればいいのか、うまくできない。女の子同士は、お互いに傷が怖い。私は絶対女の子を傷つけたくないし、できれば傷つけられたくない。
逆に言うと男の人を傷つけても、傷つけられても、やっぱり本当に辛いけれど、こちらにはちゃんと別れがあるから。否応無く区切られる別れがあるから。
だから死にたくなっても、耐えられたような気がする。
別れれば手が届かないから。
おじちゃんの接近は二年かかって、こんな風に一緒に飲みにいけるようになったのも割と最近のことだ。急に近づいたりしないのに、何か求めるわけでもなく、いつの間にか近くなった。電車を乗り過ごした振りをして、電話をかけてくれる。最初は人見知りして、怖かったけれど、今はそんなことは全く無い。
おじちゃんはとても繊細な人だ。ここ最近連絡が無い。
harufarにいろんな経験をさせてやりたい。それでな、こうやってはるかが成長するのが、おじちゃんの楽しみなんや。何を残せるかってそういうことやと思うんよ。
ねえおじちゃん、私は何ができるかなぁ。
まだちょっと心の隅が震えてる。
分からなかったり、名前を知らないことがたくさんある。
そんなものによく出会う。
これが、私の年なのかもしれない。
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